高松市成合町の内科・消化器内科・心療内科・精神科 大饗内科消化器科医院

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糖尿病と癌

日本内科学会雑誌(2013年4月)に「糖尿病に関連する内科疾患」の特集が組まれました。その中の糖尿病と癌との関連についての論文(能登 洋)が興味深かったのでまとめてみました。
世界的に糖尿病患者ではがん発症のリスクが男女とも同程度に有意に高いことが報告され(膵臓癌1.82倍、大腸癌1.30倍、乳癌1.20倍)、日本人のがんリスクも有意に高く(癌全般で1.7倍)、世界的リスクよりさらに高値であることが報告されています。
日本人の臓器別癌に関しては、糖尿病に伴う肝臓癌(3.64倍)と子宮体癌(3.43倍)のリスクがいずれも有意に高値であることが示されています。また、C型肝炎ウイルス感染者でも肝臓がん発症への寄与が特に大きいのは肥満と高血糖でした。
なお、糖尿病患者ではインスリン抵抗性によりテストステロン(男性ホルモン)産生が低下します。前立腺癌はテストステロン依存性であるため、他の癌と異なり、糖尿病患者では前立腺癌のリスクは低下します(海外の報告で0.84倍)。
糖尿病患者の癌リスクが高い機序として、高インスリン血症と高血糖が関与しているとされています。
2型糖尿病はインスリン抵抗性と代償的高インスリン血症を特徴とします。インスリンはinsulin-like growth factor-1(IGF-1)受容体に結合することで癌を誘発することが想定されています。
高血糖は酸化ストレスを高め、それが発癌の第一段階であるDNA損傷を引き起こすことが提唱されています。2型糖尿病の癌細胞増殖や転移は高血糖で促進することが報告され、また血糖値と癌リスクには正の相関があることも報告されています。
治療薬としてのインスリンはIGF-1受容体を介して発癌リスクを増加させる可能性があるため、インスリン治療に際しては癌リスクの可能性も念頭に管理すべきとされています。SU薬(アマリールなど)やグリニド(シェアポストなど)も癌リスクが高まるとの報告があります。ただしインスリンやSU薬により(おそらく高血糖が改善するため)、癌リスクの有意な低下を認めたとの報告もあります。
メトホルミン(メトグルコ)はAMP(adenosine monophosphate)activated protein kinase(AMPK)の活性化を介して発癌リスク低下作用を持つことが想定されています。日本人の解析でも発癌・癌死のリスクともメトホルミン服用者で低いことが報告されています(全癌発症が0.67倍、肝臓は0.20倍、結腸直腸は0.68倍/全癌死が0.66倍)。
ピオグリタゾンは全癌リスクには影響ありませんが、膀胱癌のリスクを有意に増加させる報告が相次いでいます。
DPP4阻害薬(ジャヌビアなど)は、一部の癌リスクが増加する可能性が示唆されていますが、リスクの増加を認めないとの報告もあります。

当院でも肝炎ウイルス陰性の糖尿病患者様に肝臓癌を認めた経験があります。糖尿病の方は定期的なエコー検査、内視鏡検査、乳癌検診などが重要であると思われます。